ディスペア
(11)~残酷で屈託のない笑顔~
サイレンの音が頭に響く。
私達は物陰にそっと身を潜める。

 「この近くで目撃証言が多数出ている。まだいるはずだ!探せ!」

指揮するのは不破 優一。
優人の父親だ。
どうやら私の住んでいた……母親を殺したマンションでひとり、聞き込みをしていた彼はある証言を聞いたらしい。

「なんか窓の外から『許さない!』って声が聞こえて。慌てて見ると人が落ちてきてて……」と。

それも数件。
そう、部下達に話していた。


 「ここもそろそろ危ないね。」

そういった優人は汗をかいていた。
こんな季節に。
それもそうだろう。
今、私達は警察に追われている。
ましてや優人は、自分の父親に追われているのだから。

こんな顔は初めて見た。
彼の深刻な横顔が私の目に焼き付く。
怖かった。
彼が壊れてしまいそうで……
こんな顔、させたくなかった。
こんな顔、見たくなかった。
それでも彼は私の様子に気づいて、心配ないよと笑顔を作る。

………心配だよ。
もう、やめてよ。
私は彼の視界を遮るように彼をそっと抱きしめた。
全部私のせいなの。
ごめんね……ごめんね。

もうなにも考えないで。
もうなにも見ないで。
  そして、抱きしめてからわかった。

……優人は震えていた。




  警察が帰って、私達は物陰からでた。
辺りはもう真っ暗で、立ち上がる時に足が痺れていてふらついた。

「次の場所、探さなきゃね。」

そういって優人は鞄から携帯を取り出した。
地図を見るらしい。

  ?

「これなに?」

私が気になったのは、携帯のストラップだった。

 「ん、これ?友達がくれたんだ!」

そう言って笑った彼は、とても眩しかった。
それが今は残酷だった。
その屈託のない笑顔は、私と彼の間に境界線をひいているようだった。
住む世界が違うということだろう。
でも、まさか彼との間にこんなにも差があったなんて……
紛れもないその真実は私の心を深く切り裂いた。


次が、最後になるのだろう。
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