ディスペア
(2)~目の中の闇~
私はいつもの時間に家に帰った。
母の手をみる。
………あぁ、今日もまた私を殴る気だ。
母の手の中の銀に光るそれが全てを語っていた。
母の奥には窓の空いたベランダが見えた。
だから私は言った。
「お母さん、ただいまっ!」
いつもなら黙ってうつむいているはずの私が笑顔でそう言ったから母は少しびっくりしているようだった。
私の手は震えていた。
でも、私は笑顔で言い寄る。
母が一歩さがる。
よし、この調子。
私はさらに母に寄っていって、とうとう母は窓のふちまできた。
そこで私は『いつもの私』に戻る。
そして警戒した表情で、母を見つめる。
すると母は、ここぞとばかりに鉄の棒を振り上げる。
母の体勢は後ろに傾いている。
…………今だ。
私は勢いよく前に出て、母を力いっぱい押した。
次の瞬間母の背中は柵にうちつけられ、固定されていない柵とともにベランダから落ちていった。
ここは12階だ。
まず、生きていることはないだろう。
そう、堕ちたのだ。
……………………地獄に。
私は呟いた。
「……バイバイ………。」
私の瞳は闇に飲まれ、感情のない涙がこぼれた。
口元には笑みが浮かんでいた。
"次のニュースです。昨日43歳無職の女性がマンション12階から転落、死亡が確認されました。事故原因は………"
まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。
でも何はともあれ、自由になれたんだ!
「………嬉しい。」
………………………嬉しい?
あれ?私今、どんな気持ち?
………わからない。
自分の気持ちがわからない。
どうやら私は、自分の手を汚すと同時に感情を捨ててしまったらしい。
きっと私は、これからずっと感情のない世界で生きていくのだろう。
私の目の中の闇がそういっていた。
《ピンポーン、ピンポーン》
インターフォンの音がする。
少しためらったあと、私はドアを開けた。
そこにいたのは穏和な雰囲気に包まれた少年だった。
同じ学校の制服を着ている。
「こんにちは、同じクラスの不破 優人です。」
同じクラス?
あぁ、クラス替えしたのか。
でもなんで家にわざわざ………
「僕と、今から少し散歩しませんか?」
母の手をみる。
………あぁ、今日もまた私を殴る気だ。
母の手の中の銀に光るそれが全てを語っていた。
母の奥には窓の空いたベランダが見えた。
だから私は言った。
「お母さん、ただいまっ!」
いつもなら黙ってうつむいているはずの私が笑顔でそう言ったから母は少しびっくりしているようだった。
私の手は震えていた。
でも、私は笑顔で言い寄る。
母が一歩さがる。
よし、この調子。
私はさらに母に寄っていって、とうとう母は窓のふちまできた。
そこで私は『いつもの私』に戻る。
そして警戒した表情で、母を見つめる。
すると母は、ここぞとばかりに鉄の棒を振り上げる。
母の体勢は後ろに傾いている。
…………今だ。
私は勢いよく前に出て、母を力いっぱい押した。
次の瞬間母の背中は柵にうちつけられ、固定されていない柵とともにベランダから落ちていった。
ここは12階だ。
まず、生きていることはないだろう。
そう、堕ちたのだ。
……………………地獄に。
私は呟いた。
「……バイバイ………。」
私の瞳は闇に飲まれ、感情のない涙がこぼれた。
口元には笑みが浮かんでいた。
"次のニュースです。昨日43歳無職の女性がマンション12階から転落、死亡が確認されました。事故原因は………"
まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。
でも何はともあれ、自由になれたんだ!
「………嬉しい。」
………………………嬉しい?
あれ?私今、どんな気持ち?
………わからない。
自分の気持ちがわからない。
どうやら私は、自分の手を汚すと同時に感情を捨ててしまったらしい。
きっと私は、これからずっと感情のない世界で生きていくのだろう。
私の目の中の闇がそういっていた。
《ピンポーン、ピンポーン》
インターフォンの音がする。
少しためらったあと、私はドアを開けた。
そこにいたのは穏和な雰囲気に包まれた少年だった。
同じ学校の制服を着ている。
「こんにちは、同じクラスの不破 優人です。」
同じクラス?
あぁ、クラス替えしたのか。
でもなんで家にわざわざ………
「僕と、今から少し散歩しませんか?」