ディスペア
(3)~あの頃に戻される~
『俺と、少し散歩しませんか?』

そんなことを言われるなんて思わなかった。
普通は学校に来いとかさ、そんな感じじゃないの?
でも、そう言われても私は絶対動かない。
それも分かってて言ってるのかな?

バカだな私……嬉しいと思ってしまった。
感情なんて無くしたはずなのに。
でも………

「でも……私、左足が悪くて……」

あぁ、帰っちゃうのかな……?

「あの……とりあえず、外の空気を吸うだけでもどうですか!?」

え?
帰らないの?
まさか食い下がってくるとは思わなかった。
だったら………

「じゃあ………ちょっとだけ。」

そう言ったのにキミはどうして浮かない顔をしているの?

 このころの私は、笑顔の裏にある彼の思いなんて知るよしもなかった。


 あぁ、久しぶりだな。
こんなに近くで鳥が鳴いてる。
髪に触れる風も心地いい。
それになにより………

「空気がさっぱりしてる……」

「うん、ずっと部屋にこもってたんだもんね。」

そう言うと、彼は微笑んだ。
あ、……普通に笑ってる。
なんだ、さっきのは勘違いか。

 そして私たちは、近くの公園を散歩した。
彼は学校の話をしてくれた。
中2の時と違って、みんなが授業をしっかり聞いていることとか……

 彼は私に歩くペースを合わせてくれる。
優しい人だなと思った。
それにつられて、私の心はずいぶん落ち着いていた。

「そろそろ帰ろっか。」

「うん………。」

もう会えないのか。
すると彼はそれを悟ったかのように呟いた。

「僕、明日もさっきと同じ時間にここの公園通るんだ~。」

嬉しかった。
また、来てもいいと言われてるようで。
 そして私たちは手をふって帰った。


 あれから1週間、今日も私たちは公園を歩いていた。
彼が目の前の鉄棒に触れた。

  ビクッ………

私の記憶があの頃に戻される。
父や母の右手を思い出す。
銀色の硬いものをもって、そして……
私はまた……あの手で………
やだ………怖い……

 私がついてこないことに気づいた彼は私のところまで戻ってくる。
全身が震える。

「どうしたの!?」

怖い……怖い……怖い……

「やだっ来ないで!お願いだから……殴らないで………!!」

私は、彼に両腕を掴まれた。
力が強くて逆らえない……
私は必死であがく。

「僕を見てっ!」

彼が、大声でそう叫んだ。
私は彼を見る。

あ………優人だ。
いつも優しい優人だ。
私は少し、落ち着いた。

………でも、お父さんやお母さんみたいに優人もいつか………
………私を裏切るかもしれない。

「どうせ、優人も私を裏切るんでしょ!!」
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