図書恋ーー返却期限なしの恋ーー
「――――んっ」
粘着質な音が唇の間で漏れ聞こえ、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。窓の外からは体育の授業の子どもたちの歓声が聞こえてきて、その爽やかな声と室内に漏れる隠微な音の対比が、一層わたしを追い詰める。
「も」
離して、という声が追って来た唇に飲みこまれた。ふたたび絡み取られて、どうしていいかわからない。少し前に相手を押しやることをやめた手首は反り返って、中途半端な位置で止まっている。
知らなかった。
キスってこんなに熱いんだ。
朦朧とするわたしを宥めるように、小林の指が頭皮を撫でる。耳の裏を指先がかすめると、腰がビクリと跳ねた。
どのくらい経ったのか、執拗に絡まっていた舌がようやく緩んだ。唇が解放されて、息ができる。
「――……」
今あったことが整理できない。白昼夢を見ているようだ。でも間近にある男の唇が濡れていて、それがわたしの唾液の所為だとわかって、いたたまれなさで泣きたくなる。
ただ無言でお互いを凝視している、濃度の高い空気の中、哲が口を開いた。
「これが、亜沙子のファーストキスだよ」
言われたことの意味がわからず、問うように哲を見返す。
「この間のでもない。新歓のクソみたいな事故でもない。今のが」
わたしの湿った唇を、拭うように、あるいは感触を確かめるように親指で触れた。おもわず喉が鳴る。
哲は目を細めて笑った。
「亜沙子のはじめてのキスだ」
粘着質な音が唇の間で漏れ聞こえ、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。窓の外からは体育の授業の子どもたちの歓声が聞こえてきて、その爽やかな声と室内に漏れる隠微な音の対比が、一層わたしを追い詰める。
「も」
離して、という声が追って来た唇に飲みこまれた。ふたたび絡み取られて、どうしていいかわからない。少し前に相手を押しやることをやめた手首は反り返って、中途半端な位置で止まっている。
知らなかった。
キスってこんなに熱いんだ。
朦朧とするわたしを宥めるように、小林の指が頭皮を撫でる。耳の裏を指先がかすめると、腰がビクリと跳ねた。
どのくらい経ったのか、執拗に絡まっていた舌がようやく緩んだ。唇が解放されて、息ができる。
「――……」
今あったことが整理できない。白昼夢を見ているようだ。でも間近にある男の唇が濡れていて、それがわたしの唾液の所為だとわかって、いたたまれなさで泣きたくなる。
ただ無言でお互いを凝視している、濃度の高い空気の中、哲が口を開いた。
「これが、亜沙子のファーストキスだよ」
言われたことの意味がわからず、問うように哲を見返す。
「この間のでもない。新歓のクソみたいな事故でもない。今のが」
わたしの湿った唇を、拭うように、あるいは感触を確かめるように親指で触れた。おもわず喉が鳴る。
哲は目を細めて笑った。
「亜沙子のはじめてのキスだ」