図書恋ーー返却期限なしの恋ーー
玉入れ、徒競走、ダンスにリレー。プログラムは順調に進んでいく。りゅうき君が、体操服の袖に水色のリボンを付けてもらっていた。一年生の三十メートル走、二位だったと言って光沢のあるリボンを誇らしげにわたしに見せてくれた。
「らいねんは赤いのつけてもらう」
赤いリボンは一位の証だ。徒競走に順位をつけない学校もあると少し前にテレビでやっていたけど、白峯小はしっかり表彰までやる。いろんな意見があると思うけど、少し悔し気に抱負を言うりゅうき君はそれまでより顔つきがしっかりして、またひとつ成長を見せてくれた。
こんなふうに一生懸命な姿を見ていると、あの日以来砂のように渇いた心が一時的でも柔らかくなった気がする。がんばったね、とりゅうき君の頭を撫でた。
『次は借りもの競争です』
本部のテントから放送が入る。設営された門の前を振り返ると、借りもの競争に出る子どもたちが並んでいた。競技というより余興の色合いが強い種目なので、みんなリラックスした様子で笑ったり話したりしている。
子どもの列の向こうに、先生たちが並んでいた。やっぱり男性の先生が多い。そしてやっぱり、いた。
青色のジャージの上は脱いだらしい。半袖の白いシャツ。哲がほかの先生となにか話している。ああ、またこうやって見てしまう。視線を逃がせない。
あのひとに、抱かれたんだ。
ぼうっとしていると、ふいに哲がこちらを振り向いた。ギクリと肩が強張って、同時に胸が強く鳴った。
こっちを見てる? 目が合ってる?
わたしの後ろでは体育委員の子たちが忙しそうに走り回っている。子どものはしゃぐ声。保護者が時々子どもたちの座ってる場所まで来て、水筒を手渡したり写真を撮ったりしている。
ちがうきっと、わたしを見てるわけじゃない。
そう言い聞かせても、胸がざらざらと騒ぐ。落ち着けるように胸の前で拳を握って、首をふっと横に向けた。
「亜沙子先生?」
りゅうき君が下からわたしを見上げて、驚いたように目を丸くする。
「どっかいたいの? 保健室いく?」
わたしは黙って首を横に振った。その拍子に雫がひとつ、落ちていく。
「なんでもないよ」
目元をごしごしと擦りながら、思い知る。
だれかを好きになることって、こんなにつらいんだ。
「らいねんは赤いのつけてもらう」
赤いリボンは一位の証だ。徒競走に順位をつけない学校もあると少し前にテレビでやっていたけど、白峯小はしっかり表彰までやる。いろんな意見があると思うけど、少し悔し気に抱負を言うりゅうき君はそれまでより顔つきがしっかりして、またひとつ成長を見せてくれた。
こんなふうに一生懸命な姿を見ていると、あの日以来砂のように渇いた心が一時的でも柔らかくなった気がする。がんばったね、とりゅうき君の頭を撫でた。
『次は借りもの競争です』
本部のテントから放送が入る。設営された門の前を振り返ると、借りもの競争に出る子どもたちが並んでいた。競技というより余興の色合いが強い種目なので、みんなリラックスした様子で笑ったり話したりしている。
子どもの列の向こうに、先生たちが並んでいた。やっぱり男性の先生が多い。そしてやっぱり、いた。
青色のジャージの上は脱いだらしい。半袖の白いシャツ。哲がほかの先生となにか話している。ああ、またこうやって見てしまう。視線を逃がせない。
あのひとに、抱かれたんだ。
ぼうっとしていると、ふいに哲がこちらを振り向いた。ギクリと肩が強張って、同時に胸が強く鳴った。
こっちを見てる? 目が合ってる?
わたしの後ろでは体育委員の子たちが忙しそうに走り回っている。子どものはしゃぐ声。保護者が時々子どもたちの座ってる場所まで来て、水筒を手渡したり写真を撮ったりしている。
ちがうきっと、わたしを見てるわけじゃない。
そう言い聞かせても、胸がざらざらと騒ぐ。落ち着けるように胸の前で拳を握って、首をふっと横に向けた。
「亜沙子先生?」
りゅうき君が下からわたしを見上げて、驚いたように目を丸くする。
「どっかいたいの? 保健室いく?」
わたしは黙って首を横に振った。その拍子に雫がひとつ、落ちていく。
「なんでもないよ」
目元をごしごしと擦りながら、思い知る。
だれかを好きになることって、こんなにつらいんだ。