図書恋ーー返却期限なしの恋ーー
副校長の言葉を頭のなかで繰り返す。
哲が言った?
なんのために?
とん、と背中が押される。さっきよりも強く。
まどか先生がこっちを見ていた。いつも笑っているみたいに見える目が、少し尖って見える。
「行きなさい」
黙ったままのわたしに、重ねて言う。
「保険医の目から言わせてもらうとね、あなたたち二人そろって顔色が悪いの、もうずっと。きちんと話し合って、それでダメならまたいらっしゃい。保健室のベッド、占領させてあげるから」
そう言ってニコッと笑った。丸くもりあがるほっぺたが優しい。
「……ありがとうございます」
小さく言って、ふしぎそうな顔をしている副校長を見上げた。
ふぅぅ。長い息を吐く。
指先が冷たい。緊張する。
大人になっても、こわいものがある。
こんなふうに、いろんなことを知っていく。
立ち上がると、パイプ椅子が軋んだ音を立てた。校庭の白っぽい砂の所為で、履いてるスニーカーがあっという間に汚れる。家に帰って洗う時には、どんな気もちになってるんだろう。
「鍵、開けてきます」
本を借りたいのなら借してあげる。わたしは学校司書なのだから。
哲が言った?
なんのために?
とん、と背中が押される。さっきよりも強く。
まどか先生がこっちを見ていた。いつも笑っているみたいに見える目が、少し尖って見える。
「行きなさい」
黙ったままのわたしに、重ねて言う。
「保険医の目から言わせてもらうとね、あなたたち二人そろって顔色が悪いの、もうずっと。きちんと話し合って、それでダメならまたいらっしゃい。保健室のベッド、占領させてあげるから」
そう言ってニコッと笑った。丸くもりあがるほっぺたが優しい。
「……ありがとうございます」
小さく言って、ふしぎそうな顔をしている副校長を見上げた。
ふぅぅ。長い息を吐く。
指先が冷たい。緊張する。
大人になっても、こわいものがある。
こんなふうに、いろんなことを知っていく。
立ち上がると、パイプ椅子が軋んだ音を立てた。校庭の白っぽい砂の所為で、履いてるスニーカーがあっという間に汚れる。家に帰って洗う時には、どんな気もちになってるんだろう。
「鍵、開けてきます」
本を借りたいのなら借してあげる。わたしは学校司書なのだから。