図書恋ーー返却期限なしの恋ーー
「無視する。なかったことにする。記憶から抹消する」

 自分に暗示をかけるように呟いて、ふーっと息を吐く。ところどころに傷のある若草色の扉。図書室の扉に手をかけた。
 ガラッ。
 扉を開けると、小林がいた。かがみこんで、覆いかぶさるように子どもを――りゅうき君だ、と気がついた――抱きしめている。ビクビクと、無邪気な子どもの華奢な背中が震えている。小林の大きな手に掴まれて、身動きがとれないでいる。
 
 なにも考えられなかった。咄嗟に、今までしたことのないことをした。
『赤毛のアン』のアンがギルバートを石板で叩いたように。扉の脇に並んでいる百科事典を一冊つかむと、小林の頭におもいきり叩きつけた。
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