309.5号室の海
◇◇◇1.
「あ、こんにちは」
「……どうも」
午前7時30分。
会社へ行くために普段と同じ時間に家を出て、ドアの鍵を閉め終わったところで、隣の家の住人が帰って来た。
すれ違いざまに軽く挨拶をして、エレベーターへと向かった。背後では、鍵を回す音、その後にドアを開ける音がする。
エレベーターのボタンを押してからゆっくり振り返ってみると、ちょうど閉じたドアからガチャッと鍵をかける音が聞こえた。
目の前で扉を開けたエレベーターに乗り込むと、他には誰も乗っていなかった。
1階のボタンを押して、壁にもたれて大きく息を吐き出すと、自分でも気付かないうちに体が強張っていたのがわかった。
「……緊張、した……」
1人きりの空間の中、思わず胸元を押さえてそう呟いた。
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