309.5号室の海

「外堀から埋めて、逃げられなくするつもりだったのかなあ。失敗したみたいだけど」

「たぶん、付き合ってないのがまわりにバレたから慌てて別れたって言ったんじゃねえの。どうでもいいけど」


頬杖をついて、まるで他人事のようにそう吐きすてる。興味がない人やものには、容赦なく冷たいのがこの滝本という男だ。
私はもう慣れてしまってるけど、きっと怖がられてしまうことも多いだろう。


「モテる人ってのも、大変だね。贅沢だけど」

「嬉しいモテ方と嬉しくないモテ方ってのがあんだよ。お前にはわからんだろーけど」

「うんわからない」


アイスコーヒーとアイスティーをほぼ同時に飲み終えたのをお互いが確認して、ほぼ同時に席を立った。
伝票はもちろん、滝本の手の中だ。


「ま、お前はせいぜい連絡先手に入れるところから頑張れよ。しょうがねえから応援してやる」

「うん、ありがとう。フラペチーノはテイクアウトでお願いします」

「…はいはい」


3番目に大きいサイズのフラペチーノと、美味しいものに満たされたお腹で、すっかり幸せな気分で会社へと戻った。

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