309.5号室の海
「おれ、こう見えてすっごい料理得意なんだ!それが理由で涼さんに仕事誘われたようなもんかな。あ、そういや涼さん今コンビニ行ってて、もうすぐ帰ってくるんだけど。おれの家、両親が洋食屋さんやってて、昔っから手伝ったり教えられたりしててさー!意外でしょ?でもおれ、こう見えてすっごい………(略)」
気付いてた。
気付いてはいたけど、よく喋る子だ。
とりあえず蒼井さんは今コンビニで、もうすぐ帰ってくること。千秋くんがとても料理上手なことはわかった。
たぶん、今から作るから蒼井さんの家で一緒に食べていきなよって流れなんだと思う。
しかし残念ながら、それはお断りしないといけない。何故ならそんなことしたら私の心臓がもたないから。
「千秋くん、気持ちは嬉しいけど遠慮しとくよ。申し訳ないし」
「えー?なんで?」
「えっとだから、申し訳ないし…。それに、お店行かないとじゃないの?もう7時前だよ?」
とっさに腕時計を見てそう言った。
確か、あのお店はいつも私が帰ってくる時には営業してる。ということは、いつもは5時か6時にはオープンしてるんじゃないだろうか。
「大丈夫だよ!今日は1週目の水曜で定休日だから」
「え?定休日?」
「うん。毎月第1水曜と、第3火曜水曜は定休日!だからおれと涼さんも、朝帰ってきてさっきまで寝てたんだよねー!」
定休日まで一緒にいるなんて、よっぽど仲が良いのだろうか。それか、よっぽど懐かれているのだろうか…?