309.5号室の海
「俺、星野さんに社交辞令でなにか言ったこと一回もないんだけど」
「……ん?」
「というかそういうの苦手。わりと思ったこと言うタイプだと思う」
わかった。
蒼井さんは、クールなふりした女たらしなんかじゃない。
普段口数少ないくせに、そういうことは恥ずかしがらずに言っちゃう天然心臓破壊人間だ。
わざとなんかより、よっぽどタチが悪い。
「え、どうしたの」
「なんでもないです。ちょっと心臓機能の回復をおこなっていまして……」
「?ふーん」
特に気にする様子もなく、視線をテレビへと移した蒼井さんが、なにを考えてるのか私にはさっぱりわからない。
あの流れで、彼女いるか聞けばよかった。
今からでも聞いてしまおうかと、口を開いたとき。
「じゃーん!出来たよ!千秋スペシャルー!」
なんだか一気に力が抜けた。
可愛いんだけど、可愛いんだけど!
しかし、テーブルに並べられた料理を見て、千秋くんを尊敬せざるを得なかった。
大きなハンバーグ、ミートドリア、シーザーサラダ。デザートに、スイートポテトまであるらしい。
さすが、実家が洋食屋なだけある。
「千秋くん、すごいね!?」
「でしょ?はい食べよー!」
3人そろって手を合わせて、千秋くんお手製ディナーをいただく。