309.5号室の海
「!!」
「ゆりさん、美味しい?」
「〜!〜〜!」
千秋くんに向けてこくこくと頷いてみせた。
自分で得意というだけのことはある。
千秋くんが作った料理は、どれもとても美味しかった。特に、ハンバーグの中にマッシュポテトが入ってるのを見たときは感動した。肉の旨味が流れ出ていかずに閉じ込めてくれるのだとか。
「本当すごい!天才だね!」
「えへへ、ありがとう。よかったらさ、また一緒に食べようよ。都合会う日あれば誘うから!」
それは、またこの家に来てもいいってことだろうか。
ちらっと、ここの主の顔を伺う。すると、それに気が付いた蒼井さんがゆっくりと私のほうを向いた。
「……千秋のためにも、またおいでよ。こいつ、人のために何かするの好きみたいだし。ね」
「はっはい!お2人がよければ、是非」
夢みたいだ。
挨拶を交わすことしか出来なかったのに、こんな風に近付けるなんて。
それに、やっぱり、私この人のことすっごい好きだ。他の誰にも渡したくないと思うほどに。
「あ、でもその代わりに」
「?……なんでしょう」
片方だけ口角を上げて、蒼井さんが私の目を下から覗き込んできた。
「今度、星野さんの家にもお邪魔させてほしいかも」
「っ……!」