309.5号室の海

「それでおあいこ。……星野さん?」


もう、なにもかも。
距離感も、表情も、発言も、なにもかもが心臓に悪い。


『え、なに、お互いの家行き来したりしてんの?』

『そんなこと!……出来るならしたい!』


たまらずに、両手で顔を隠す私をどう思ってるだろう。頭から湯気が出そうだ。


「……明日は、季節はずれの何かが降るかもしれません」

「え、なにそれ」


変なの、と言って再び料理を口に運ぶ蒼井さん。
お箸を口元へ運ぶその動作ひとつにさえ、胸をときめかせている私は病気なのかもしれない。

男の人だというのに、惜しみなく放たれるオーラというか色気みたいなものに、慣れる日は来るんだろうか。



明日も明後日も明々後日も、この人は隣の家なのだ。

誰か、心臓を休める機械を発明してください。
そんな非現実的なことを思った。

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