309.5号室の海

「……あたしだって、り、涼さんのこと好きだもん。ず、ずっと、好きなんだもん」

「そ、そっかそっか!そうだよねかっこいいもんね蒼井さん!はい目尻おさえてー」

「うん。……しかもね、優しいしね」

「美人だしねえ。あ、こすったらマスカラ滲んじゃう!」


カナちゃんは、私が渡したハンカチを目に押し当てて、必死に涙が落ちるのを堪えてるようだ。
仕事中なのに、なんて話をしてしまったんだ。せめて蒼井さんと千秋くんにバレないといいけど。


「姿勢も綺麗だし。…ぐすっ」

「笑顔も素敵だしね」

「スタイルもいいし」

「あー、ここの制服の白いシャツも似合うよね」

「そうなの。あと髪の毛も、染めてないのに自然に茶色くてサラサラなの」

「わかる!俯いたときに目元にサラッてなるの良いよね」

「うんうん!肌も白くて綺麗でっ」

「そう!儚い感じがするよね!」


気が付くと2人ともカウンターの上に拳を握って、興奮している。


「……」

「……」


きっとこれも、一種の意気投合だ。
お互いにすっかり毒気を抜かれてしまって、目を合わせて少し笑ってしまった。


「あはは、ねえ星さん」

「ふふっ、なにカナちゃん」

「あたし達、ライバルだね」


そう言ったカナちゃんは、やっぱりとても可愛い女の子だった。

もうそのハンカチはあげよう。
それから、もう一杯だけ飲んでから帰ることにしよう。

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