309.5号室の海
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第3火曜日。朝から私の気持ちは落ち着かなかった。
「星野、何かいいことあったの?それとも嫌なことがあったの?」
「はい?」
そんな不思議なことを聞いてきたのは、会社の先輩である木佐貫さんだった。
木佐貫さんは、私が新入社員のときからよく面倒を見てくれる、お姉ちゃんのような存在だ。
「なんか朝から顔色が……赤くなったり青くなったりしてるから。見てるこっちは面白いから別にいいんだけど」
「……私、そんな百面相してましたか」
「そうね、百面相といわず千面相ぐらいしてたんじゃない?」
「私の表情にそんなにレパートリーはありません」
あはは、と声を出して笑った木佐貫さんが、手に持っていた書類を丸めて、頭をポンポンと叩いてきた。
「何か悩み事なら聞くけど?仕事以外のことでもいいわよ」
条件反射のように叩かれたところに手をやりながら、お言葉に甘えることにしてみた。
「……実は今日の夜、好きな人が家に来るんです」
「……マジで?」
「大マジです」
はあっとため息をもらしながら、私は3日前の土曜日ことを思い出した。