309.5号室の海
週明けの月曜日、私は再び役員室を訪れていた。
「……星野、それがお前の出した結論か?」
人事部長は、眉間にしわを寄せて難しい顔をしながら、確認の言葉を口にした。
濃い茶色をした木目調の机の上に、手を組んでおいている。
「はい。その上で、自分に出来ることを精一杯やりたいです」
「そうか」
迷いはなかった。
後悔するかどうかなんて、今はまだ考えない。
「……お前は、この仕事が好きか?」
そう尋ねられて、背筋を伸ばした。
いつもよりヒールの高い靴を履いた足、そのつま先に力を入れた。
「はい、とても」
自信満々に言っておいて、自分で可笑しくなって唇の端から、笑いが漏れた。
人事部長が訝しげな顔をしてることに気付いていたけど、知らないフリをした。
役員室の大きな窓から見える空は、青く澄んでいて、とても綺麗だった。