309.5号室の海
◇◇◇6.
いざ整理してみると、自分のデスクは物で溢れかえっていた。
引き出しの奥底から出てきた写真には、入社当初の私と滝本がうつっていた。
あまりのんびりはしてられない。
仕事の合間の空き時間に、毎日少しずつ片付けていく。
あと1ヶ月と少しで、空っぽにしなければいけないのだ。
「出来ることは手伝うから言ってよ?」
「木佐貫さん。ありがとうございます」
ポンと肩を叩かれて、その気遣いに嬉しくなった。
木佐貫さんにもたくさんお世話になったから、これ以上迷惑はかけたくないのだけど、その気持ちを知ってか知らずか、木佐貫さんのほうから声をかけてくれる。
「再来月からはもう本社なんだっけ?」
「そうですね。出来たら来週にでも家を探しにいって、来月末には引っ越しておかないと」
「忙しいわね。することたくさんあるでしょ?」
そう言われて、デスクの上のファイルの山に目を向ける。
憂鬱になっても、目を背けるわけにはいかない。
「仕事の引き継ぎと、物件探しと、引っ越しの用意ぐらいですけどね」
「あら、他にも色々あるんじゃないの?大切なことが」
「え?」
どういう意味かと木佐貫さんを見ると、またあの意地の悪そうな顔で笑っていた。
こういう顔をしてるときの木佐貫さんは、いつも仕事とは関係のない話をすると知っている。
「告白しないの?」
「こっ……」
「大切なことでしょ?」