309.5号室の海
今は、わざと意識的に考えないようにしていた。
決意が崩れるからとか、そんな理由じゃなくて、終わらせないといけないから。
その終わらせかたを、どうするか。
告白していくのか、なにも言わずに離れるのか、だ。
どちらにしても、この気持ちに決着をつけて、終わらせないといけない。
それが、正直なところ辛くて、わざと逃げているといったところだ。
「ちょっと、まだ……考えてます」
結局、こうとしか言えない。
ただ仕事をして、準備に追われていたら、他のことは考える時間がないから。
「そんなこと言ってるとね、逆に告白されてもっとパニックになるわよ」
「逆に、告白?なんですかそれ」
「うん、そんな調子だと余計に戸惑うだろうけどね。ちょっと気の毒かも」
誰の、何のことだろう。
深く突っ込んでいいのかもわからず、うまく口を開けない。
木佐貫さんは相変わらず笑っているけど、少し悲しそうに見えるのはどうしてだろう。
私への、最後のアドバイスかもしれないなと思った。
そのとき、背後からチッと舌打ちが聞こえた。
驚いて振り返ると、通り過ぎていったのは滝本だった。背中を向けているのでどんな顔をしてるかわからない。
「おお、こわーい」
おどけるような口調で、木佐貫さんがそう言った。