309.5号室の海
◇◇◇7.
「はい、皆さん飲み物持ちましたかー?ではいきますよ!星野の新たな門出を祝って、乾杯ー!」
「「「乾杯ー!」」」
木佐貫さんの音頭に合わせて、みんなが一斉に声を上げた。
違う部署の人達も合わせて、50人程が集まってくれた私の送別会は、会社近くのモツ鍋店の座敷を貸し切って行われた。
明日はリンゴジュースとブレスケア必須ですねーなんて言いながら、おいしいモツ鍋をしっかり味わった。
「星野が前向きで嬉しいよ。星野の星は期待の星!なんつって」
この寒い発言は課長のものだ。
かなりのペースでお酒が進んでいるらしい。
「でもお前、3年までには帰ってきたいとか言ったんだって?肝座ってんなー」
「部長、勝手言ってすみませんでした」
少し顔を赤くしているのは、部長。お猪口が空になったのを見て、すかさずお酌する。
「人事の部長が言ってたぞ。”行かせてください。でも、3年分のことを、2年以内に吸収して帰ってきます”って言われたってな」
「あはは……」
役員室に、返事をしに行ったあの日。
私は確かに人事部長に向かってそう言った。
とても驚かれたし、何て言われるか不安もあったけど、結果として理解してもらえた。
理由としては、木佐貫さんに気付かされた一言に尽きる。
”幸せになりたい”から。