309.5号室の海
「星野お〜」
「飲みすぎですよ木佐貫さん」
隣に座り込んできた木佐貫さんに、肩を抱かれる。
ビールのジョッキを持ったまましなだれかかってくる姿は、酔っ払いそのものだった。
「寂しい!私は寂しいよ!あんたがいなくなったら、誰が相手してくれんのよっ」
「木佐貫さん……」
「でも応援してるから。頑張ってくるのよ?成長してくるのよ?」
ぐすっと鼻をならして、涙目になりながらそう言われたら、なんだかこっちまでうるうるしてしまいそうだ。
お姉さんのような存在で、いつもハキハキしてて背筋が伸びてる木佐貫さんを、初めて可愛いと思った。
「木佐貫さんこそ、早くいい人見つけてくださいよ。報告待ってますから」
「もういいよ私のことは!星野が幸せになってくれれば」
「よくないです。あ、ジョッキ空きますね。ビールでいいですか?」
「持ってこーい!」
楽しそうに、悲しそうにお酒を飲む木佐貫さんの相手をしばらくして時計を見ると、そろそろお開きの時間になっていた。
幹事の人が、締めの挨拶をする。
「星野さん、本社へ行っても頑張ってください!」
そう言われて、大きな花束をもらった。
みんなから応援されて、今までよりさらにやってやろうという気持ちが湧いてきた。