309.5号室の海
「蒼井さんって、たまにわざとかと思うような天然爆弾落としますよね」
「え、なにそれ」
きょとんとした顔で、不思議そうに聞き返してくる蒼井さん。
だから、そういうのもですって。
「無意識にドキドキさせてくるというか、無表情でまるで興味なさそうな顔してるのに、キュンキュンするようなこと言ってきたり。こっちはそのせいで、どれだけ振り回されてきたか……」
おかげで、”天然心臓破壊人間”という言いにくくて長ったらしいあだ名まで決まってしまった。
蒼井さんは、一瞬目を見開いて停止した。かと思えば、次の瞬間には私の目をじーっと覗き込むように見つめてきて。
「わざとだったりしてね?」
と言って小首を傾げた。
ああもう、たまらない。
思わず顔を手で覆って悶える私の頭を、ツンツンとつついてくるそれも、更に心拍数を上げさせてくるのだ。
「おーい、こっち見てよ」
「〜〜〜」
悔しくて悔しくて、思いっきり背伸びをして、蒼井さんの頬にキスをした。
とびきりびっくりすればいい。
驚いた顔を期待して離れると、蒼井さんの顔は真っ赤っかになっていた。
「……え」
「……ちょっと。今のは卑怯だと思うけど」
「え、あ、……ぇえ?」
赤い顔で、拗ねたようにそんなことを言われて、予想外の反応にこっちまで赤くなってきた気がする。
覚えておこう。
蒼井さんは、不意打ちに弱い。