これも恋と呼んでいいのか


数メートル走って男に追い付いた琉ヶ嵜が、男に飛び付いて転倒させた。


逃げないように馬乗りになると、転んだ男のリュックを開ける。


「な、何だよ!?」


「これは、うちの商品ですね?」


「ち、違うよ!!何言ってんだ!?しょ、証拠は!?」


髭面で、髪もボサボサ。ろくに風呂にも入っていなさそうな、小汚い30代くらいの男がもがきながら必死で言い訳する。


「スリップ付き。久我の直筆、日付け入り。ついでにナイロンカバーには久我の指紋付き。証拠は揃ってますが、どうされますか?」


「そ、そんなもの、証拠になるのか!?」


充分だった。
基本、書籍にはスリップと呼ばれる栞のようなものが挟まっている。


本のタイトルが印刷されているので、店版を押すだけで再度注文できるようになっているのだ。


コンビニなどでは抜かないが、書店では必ず外す。


店によるが、入った時点で担当者以外でもわかるように、紙の上の小さな余白に日付けを書くこともある。


靖美はそういうところは几帳面だった。



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