これも恋と呼んでいいのか
帰りの高速バスは一旦キャンセルし、母を店の2階の部屋に休ませ、父に付いてもらっていた。
「靖美ちゃんが!?」
万引きの件で世話になった駅前の交番で、30代くらいの警官が驚く。ここにもファンがいた。
小太りで眼鏡を掛けたオタクそうな、いかにも警官になり立てで頼りなさそうな雰囲気だ。
「大変だあ!!すぐにでも本庁に連絡して捜査本部を立てなくちゃあ!!」
「…おいおい、落ち着け」
思わず心配になる。
この町は本当にこいつに任せて大丈夫か。
「25歳でしょう?自分の意思でいなくなったってことは考えられませんか?」
普通はそう思うだろう。もういい大人だ。
短く刈り上げた髪。仕事のできそうな、体格のいい40代に見える上司らしい男が。
こちらは冷静な判断のできる巡査のようだ。念のため特徴を調書に書き留めている。
「でも、電話が来ましたんでね。一応、巡回を強化するなり、気を付けていただこうかと」
「巡回は無論しますがね。脅迫的な内容ではないんでしょう?身代金を寄越せとか、殺すとか。それだけではなかなか動けませんね。申し訳ないですが」
命に関わる事態ではないし、事件が起きなければ動かないとわかっていて、相談に来てるんだがな、となんとなく釈然としないまま引き上げた。