クリスマスプレゼントは王子さま
「いつもありがとう、という意味です。食材や調理に関わった人や、それからいただくいのちに対して感謝の気持ちを込めているんです。
本当に、食べられない時の辛さは身に沁みてわかってますから……」
両親が亡くなった直後、大人たちが私たちのお世話を互いに押し付けあったせいで、ろくにご飯を食べられない日が続いた。房江おばちゃんが世話してくれなければ、最悪栄養失調や餓死は免れかねない程の状態になったんだ。
「お金が無くて水しか飲めない日が何日か続いた時があったんです。ですから、こうしてみんなでご飯を食べられる。そのことがすごくしあわせなんです」
私はついつい話してから、ハッと我に返って口を押さえた。
(や……やだ! こんなこと話したらドン引きされるだけなのに)
裕福な王子様に向けてなんてことを……と恥ずかしくなってイスの上でうつむくと。
ボソッとレン王子が何かをささやいた。
「オレもだ」
「え?」
「オレも……昔はよくあった」
隣に座ったレン王子は珍しく着ぐるみを全て脱いで、ブルーのシャツと黒のチノパンという格好。たぶんデザイナーズブランドの最高級品だろう。そんなものに身を包む人がひもじい経験をした? 信じられなくてチラッと見ると、レン王子は手にしたサンドイッチをジッと見つめていた。
「オレも、もとは大した生まれではない。母はあんたと同じような平民出身の愛妾だからな」
「え……」
「3つまでは、母と同じ下町で暮らした」
それだけ一人ごちたレン王子は、黙々とサンドイッチを頬張る。騒ぎながら食べる弟たちを見る目が何だか寂しそうに見えたのは……私の気のせいだったかもしれない。