その手に錠をはめるまで
どうせご飯は、とかでも言うと思ったからあたしは素早く起き上がって雨のためにキッチンに行く。
なんて優しいんだ、あたしは。
「どこ行くの」
雨が甘えた声でそんなことを言ってきて、ちょっとだけ、ほんの少しだけ行くのをためらう。
意地でも素直になれないのは、子供っぽいのがイヤなのかもしれない。
「・・・・・・別に」
そう言うと雨はくすっと笑って、全てを見透かしたようにありがとうと言う。
「別に、雨のためじゃないし」
むすっとしながら雨に返す言葉。
だってホントにあたし自身がお腹空いてきたんだし、何、別に雨のためだけじゃないでしょ?
「それでもありがとう、響姫」
そんな優しい声で言われたら誰だって嬉しくなる。
生憎あたしの緩んだ頬は雨には見られない。
きちんと背を向けているから、もちろん雨の優しそうな顔だって見ていない。