その手に錠をはめるまで


気配の主をなんとなく思い浮かべながら、あたしは目を閉じる。


たぶんあたしが監視するはずの男、リツだ。


監視不行き届きで申し訳ないけど(もちろん自分に対して)、こんなにも見られる理由が分からない。


思い当たらない点がないわけではないけど、まさか。


今朝の目が合っただけで、そこまで気にするようなこと?


あたしは何もしていない自信があるけど・・・・・・視線に気づいたことがまずかったのかな?



「気づいてるんだろ、そこの女」



少し低めの声で普段の彼に似つかわしくない硬い響きをのせて、そう声に出した彼。


これは反応するべきなのか。


数秒考えてからゆっくりと振り返ると、やはり美しい顔があたしの真後ろに見えた。



「何者だ?


朝の1秒に足らない視線に気づく人間なんぞ、そうそういねえ。


お前は・・・・・・どこかアイツに似ている」



アイツって、もしかしてレイのことだろうか。


どれだけレイを気に入っているんだろう、あたしとレイを間違うなんてよっぽどだ。


あたしの男装は完璧だし、背の高さだってシークレットブーツという便利なもので変えている。



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