その手に錠をはめるまで


早く出たい。


けど、ここで出て行ってしまったらせっかくの我慢が無駄になってしまう。


それだけは・・・・・・避けたい。



「なあ、てめぇらは電気もつけらんねぇのか?」



気配も何も感じさせずに新しい声がした。


目を向けるとせっかく暗闇に慣れた目に、カチッという音とともにまばゆい光が届く。


急に部屋の明かりがついたら、何がなんだか分からなくなってしまう。



「おい」



反射的に閉じていた目を慌てて開いて、あたしは声の主をじっと見つめる。



「っ」



一言で言えば、感嘆。


きっとどんな女も虜にしてきたような、そんな美形の男が1人。


声の主はなおも口を開く。



「お前」



あたしの目をまっすぐに見つめてきた男は、あたしを呼ぶ。


何もかもを見透かされているような、そんな目。



< 31 / 169 >

この作品をシェア

pagetop