4月10日の奇跡
勢いよく家をでた私をむかえたのは
家の前の満開に咲く桜並木だった。
思わず、
「きれい……」
と囁いた自分にすぐ後悔のなみが押し寄せてくる。
桜を見ると『綺麗』と思うと同時に、いつも『悲しい』と。
何か忘れてはいけないものを忘れている気持ちになった。
それは何故だか分からない。
だから私はいつもこの季節の桜が『好き』であり、また、『嫌い』でもあった。
そんな事を思いながら歩いていると、向こうから見知った人がこちらに手を振っているのが見える。
私は目に神経を集中させ真剣な顔で見ていたが、2秒後には笑顔でそこに走っていた。
桜のことなど頭にはもうなかった。