君じゃなきゃ
いつものバーに向かう途中、何故だか分からないが露店の占い師が目に入った。

占いとか基本的に信じないタイプなのに、なぜか妙に気になった。


時計を見ると約束の時間までは少し早い。


もう一度、チラリと占い師を見た。

すると、占い師の女性と目があってしまった。

彼女はニッコリ笑うと、

「彼の愚痴を聞きに今日も行くのですね。」


なんで……?


えっ、私に言ってる?


慌てて私は周りをキョロキョロ見渡したが、私以外立ち止まっている人は誰もいない。
みんな急ぎ足でどこかへ向かっている人ばかりだ。


私と占い師だけが静止した空間にいた。


何故だろう、私は占い師に引き寄せられるように彼女の前に歩み寄った。


「いつまでも自分を隠しているのは辛いね。」


彼女の一言に鳥肌が立った。


「……あの、……えっと……占ってもらえますか。」


私は奇妙な運命に身を委ね、彼女の前に座った。


「何を占いますか。仕事、健康、家族……それとも恋愛。」

私は迷わず「恋愛で……」と言っていた。



彼女はニッコリ笑うと私の生年月日を聞き取り何やら紙に書いた。

そして、私の手を取り掌をじっと見て私の顔を覗き込んだ。

「ごめんなさいね。先程あなたの事が気になって声をかけてしまって。」

「あ、いえ……。」

「あなたがあまりにも頑張っているのが見えたから、つい背中を押してあげたくね。」

「え……」

「もう怖がらずに、周りの目を気にせずに、本当の自分を出して。
頑張って自分を作り続けても、幸せは掴めないわよ。今夜は本当の自分でいられる時間が来るはずよ。リラックスして今まで押し溜めていた気持ちを少しずつでいいから彼に伝えてごらん。
きっと、幸せになれるわ。だって、あなたはもう充分頑張ってきたのだから。」


「…………。」


私は泣いていた。
こんな知らない人の前で泣くなんて。
自分でも驚いた。

……心の奥底にあった重たい蓋を開けてくれたような、そんな気持ちで、すっと心が軽くなった気がした……。

ずっと、ずっと誰かにそうして欲しかったような……。



「……あの、彼って……」



私は分かっていたけど確信がほしくて聞いてしまった……。



すると彼女は優しく微笑んだ。

「今から彼に会いにいくのでしょう。きっと、彼も待っているわ。」

「……拓海……。」

「安心して。自分の気持ちに素直になりましょう。」

「……はい。」

「大丈夫。」







いつものバーへ向かう足取りが早くなった。

早く会いたい……。

でも、どうやって自分を見せるの……。

今さら……。

頭の中ではぐるぐると葛藤が続いていた。
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