君じゃなきゃ
「なあ真沙、何かあったのか?」

「……え、何で。」

「今日は隙だらけだぞ。酔い潰れるし。」

「あー、別に。……最近、仕事忙しかったからかなぁ……。でも、ほんと酔い潰れてごめん。もう、大丈夫だから。タクシー捕まえて帰るわ。」

そう言うと真沙はすっと立ち上がった。

あー!何かモヤモヤするなあー!!!
なんだ今日の真沙は!?
駄目だ、帰したくない!

そう思った俺は真沙の手を繋ぐと引っ張るようにして歩き出した。

真沙の冷たくて華奢な指が俺の指に絡み、このまま抱きしめたくなったが、歩き続けた。

「ちょっ、ちょっと拓海。どうしたの。ってかどこいくの。」

大通りまで出ると俺はタクシーを捕まえ真沙と一緒に乗り込んだ。

手は繋いだまま。

「ねー、拓海。家まで送ってくれるの?ねえ、拓海? 聞いてる?ってか、この手は何、離してよ。」

横で騒いでいる真沙の柔らかい瞳をじっと見つめた。

まだお酒が残っているんだろう目が赤く潤んでいる。
頬もほんのり赤くなっている。

真沙は手を振りほどこうとするが、俺は強く握って離さなかった。

今日ここで離したらもう二度と俺のもとに真沙は来ない気がした。

なぜかそんな気がした。
飲み友達としても終わる気がした。
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