君じゃなきゃ
「真沙、降りるよ。」

そう言って俺は真沙を自分の家へ連れてきた。
真沙はタクシーから降りると黙った。

「いこ。」

俺は繋いだ手を引っ張り真沙を自分の家の中へ連れ込んだ。

玄関に入ると真沙は立ったまま靴も脱ごうとはしなかった。

俺は手を繋いだまま、部屋の明かりをつけた。

「真沙、靴脱いで。あがって。」

そう優しく言うと、真沙は黙ったまま靴を脱いで部屋に上がった。

俺は繋いだ手を話さないように真沙をゆっくりひっぱりながら部屋の中のソファーまで連れてきた。

「真沙座って。」

真沙は黙っておとなしく座った。

「コーヒー入れるわ。」

そう言うと俺は繋いだ手を優しくほどこうとした。
……がほどけない。
真沙が強く握って離さなかった。

真沙は手をぎゅっと握ったまま下を向いて黙っていた。

俺は真沙の前に座った。
下から真沙の顔を覗きこんだ。
……泣いていた。
……真沙が泣いていた。

「……、真沙、ごめん、ごめんな!無理やり連れてきたりして。ほんと、ごめん。大丈夫、何にもしないから。だから泣くな……。」

俺はどうしていいのか分からなかった。

本当は泣いてる真沙の顔を見たとたん抱きしめずにはいられない衝動にかられた。
抱きしめて唇を、いや真沙の全てを奪いたかった。でも、また拒まれる事が頭をよぎり、これ以上俺達の関係を壊したくないなんて都合のいい事を考えてしまい……なんとか理性を保っていた。

「……が……の。」

「え? 何、真沙?」

「……だから、……違うの。拓海のせいじゃない。泣いてるのは自分が
情けないから……。」
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