翼をなくした天使達
●新たな気持ち
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それから数日が経って私は今日もこの世界で目が覚めた。
リビングに向かうとトーストのいい匂いがして朝から換気扇がフル稼働していた。
「あかり、おはよう」
変わらないお母さんの笑顔。
記憶が戻らない時は何とも思わなかったけど、
お母さんって笑うと眉毛が下がってタレ目になるんだな。
沢山あるエプロンの中でも淡いピンク色をよく付けてるからその色が好きなのかもしれない。
「どうしたの?冷めちゃうから早く食べちゃって」
「うん」
現実世界で知らなかった事がこっちに来て色々分かるなんて皮肉だと思う。
買い物の時衝動的に色々買って家に帰って後悔する所とか、ポケットティッシュは使わないのに絶対貰っちゃう所とか、お母さんは私によく似てる。
ううん、私がお母さんに似てるんだ。
「今日夕方から雨だって。傘どうする?」
「折りたたみ傘一応持ったから平気」
玄関で見送るお母さんに背を向けて私は靴を履いた。
「あ、そうそう。前に言ってた黄色とオレンジの傘だけど。あれから気になって探したけど見当たらなくて……気に入ってたなら後で同じの見に行く?」
お母さんは思い出したようにそう言った。
「ううん。もういいの。行ってきます」
「そう?いってらっしゃい。気を付けてね」
パタリと閉まったドア。
空を見上げると雲の流れが早かった。
あの傘はまりえとおそろいで買ったもの。同じ花柄が好きで確か駅前の雑貨屋で見つけたんだっけ。
だけどその傘はもうどこにもない。
あのお気に入りだった傘はまりえに折られたんだ。それで粗大ゴミと一緒に捨てた。