翼をなくした天使達


橋本さんは種を植えた場所に水をかけて周りの雑草をひとつひとつ抜いた。


「草ってすぐはえちゃうから抜いても抜いても追い付かなくて」

橋本さんは少しだけ明るくなった。やらなきゃいけない事を見つけたからかもしれないけどアンケート以来、教室では沙織達も大きな事はしなくなった。

「……その後どう?」

「あぁ長谷川さん達の事?うーん、昨日は靴箱が壊されてたりしたけど前に比べたら落ち着いてきたかな」

密かに身を潜めている気がするけど橋本さんはやっぱり明るくなった。

「紺野さんのおかげだね」
「え?」

「私に話しかけてくれたり助けようとしてくれたのは紺野さんだけだったから」

もしもっと早く記憶が戻っていたとしたら、
私は橋本さんを助けようとしてたかな?

だって橋本さんはまりえなんだよ。

私をいじめて地獄に突き落としたあのまりえなの。

「橋本さん、毎日毎日辛かった?」

気付くと私はこんな事を聞いていた。橋本さんは少し黙って静かに頷いた。

「辛いよ。こうして何かをしてないと気が紛れないし、学校に来ると必ずお腹が痛くなる」

………分かるよ。私もそうだった。

無理やり詰め込んだ朝食のパンを何度も吐きそうになって、病気じゃないのにずっと体調が悪かった。

こんな事聞くべきじゃないけど、どうしてもどうしても尋ねないといけない事がある。


「死にたいって思った?」

< 107 / 196 >

この作品をシェア

pagetop