翼をなくした天使達
ごめんね。でも聞かせて。
私は死にたかった。そしてそれを選んでしまった。
「うん。今も思ってる。そうした方が楽なんじゃないかって」
ドクンと脈が波打つ。
私はまりえにいじめられながら何度も何度も思ってた。
同じ目に合えばいい。
同じように苦しめばいいって。
同じようにいじめられたらきっとこの気持ちが分かるのにって、そう思ってた。
私が望む事、私がしたい事を叶えてくれる世界なら、橋本まりえがいじめられる事を望んだのは私。
だけど橋本さんを見て気分が晴れたかと聞かれたらそうじゃない。同じ気持ち、同じ絶望を味わったかもしれないけど、私は全然いい気持ちになれない。
「ごめん、橋本さん……ごめん」
馬鹿だと言われてもお人好しだと思われても、私は橋本さんの気持ちが分かるから同じように苦しい。
ここは現実じゃないと割りきれても、ここにいる人達を割りきる事はできない。
名前も顔も背丈も同じで私が作り出した幻影だとしても、みんなこの世界をリアルに生きてるような気がする。
「……紺野さんも何か辛い事があったの?」
私の顔を橋本さんが覗きこんだ。その丸い瞳の中に私の姿が映っていてとても不思議な気分。
「あったよ。沢山」
もし現実世界の事を打ち明けたら橋本さんはどんな顔をするのだろう?
「……じゃ、私達一緒だね」
「?」
「デイジーの花言葉にはもうひとつあってそれは〝あなたと同じ気持ちです゛なんだよ。だからお互いに花が咲く頃には前を向けているといいね」
花に水をあげる手、優しい言葉を言う口。
私を傷付けたまりえとそれは同じモノかもしれないけど橋本さんは〝橋本さん゛でしかなくて、この世界でなら私は橋本まりえと新しい関係を作れるんじゃないかって
そんな馬鹿な事を考えた。