翼をなくした天使達
私が真剣に聞いてるのに蒼井はいまだにこっちを見ない。それどころか何かを隠すように鼻で笑った。
「今度は探偵ごっこかよ?詮索すんなって何度も言ってんじゃん。俺は誰の事も信じないし放っとけよ。お前もいい加減しつこい……」
何かがプチンと切れて私は蒼井の襟を掴んだ。
人に掴みかかったのは初めてだけど、そのぐらい頭にきた。
「いい加減に?そっちこそいい加減にしてよ。
蒼井ってさ、人には偉そうな事言う癖に自分の事になると全然ダメだね」
「は?」
蒼井とやっと目が合った。
「私に逃げ癖がついてるとか言っといて自分がそうなんじゃないの?」
私は話したくない事も隠したい事も全て打ち明けた。それで心が軽くなったし気付いた事も沢山ある。
「蒼井だって中途半端にしてる事あるんじゃないの?誰の事も信じないとかふざけないでよ。ただ信じるのが怖いだけじゃん。だからそうやって虚勢張って強く見せてるだけでしょ?」
「おい、その口閉じねーとまじで……」
「なに?ダサくてもカッコ悪くてもいいじゃん。
失うものなんて私達には何もない」
私も家族や友達の全てを失った。
理想としてたもの、思い描いていた全てが崩れたあの瞬間、もし世界の終わりがあるのなら私の世界はあの時に終わったのだろう。
「だけど少しぐらい取り戻していいのなら……
現実じゃなくてもなにかひとつ後悔が消えるならそれでいいじゃん」
「………」
「逃げるな蒼井翔也!私ももう逃げないから」
ここは現在じゃないと理由をつけていた。
あっちでもダメ、こっちでもダメで、ただ変わらずに時が過ぎるのを待ってても誰も運命を変えてはくれない。
ここで必死に何かをしても無駄なのかもしれない。
でも現在と重なるこの世界にはきっと意味がある。もし何かを取り戻していいのならそれは今なんじゃないかって思うんだ。