翼をなくした天使達
蒼井は考えるように無言になった。そして襟を掴む私の手を握る。
「分かったからとりあえず手離せ」
「……あ、ごめん」
そっと離れる指先。我に返ってまたすごい事をしてしまった気がするけど私は蒼井の事もどうでもいいなんてもう思えないから。
「お前ってさ……たまに物凄い奴なんじゃないかって思う時があるよ」
蒼井の表情が柔らかい。じっと見られ過ぎて逆に今度は私が目を合わせづらいくらいに。
蒼井の何かがほどけたみたいにゆっくりとその口も動いた。
「お前の言う通り1年前の事件の犯人は保坂達だ。正確には保坂が指示して他校の連中がやってた」
なんとなくそんな気がしてたけど。あの人自分の手は絶対に汚さなそうだし……
「それならなんで蒼井が停学処分になったの?」
「元々保坂は俺の事が気に食わなかったみたいで。落書きしたスプレーと盗んだ財布を全部俺のカバンに入れて俺を犯人にしたんだよ」
気に食わないだけで?酷すぎる。
「で、でもやってないんだしその時ちゃんと周りに言えば……」
「言ったよ。すぐに職員室に呼ばれたから俺はやってねーって。保坂が裏で不良とつるんでるのは知ってたし多分あいつらだって事もちゃんと言った。でも」
「でも?」
「信じてもらえなかった。教師も校長もみんな保坂君がそんな事するはずない。嘘を付くなって俺を責め立てたよ」