翼をなくした天使達
「傘立てに置いたんじゃなくて自分の席の近くにかけておいたんだけどなくて……」
「……」
それって橋本さんをいじめてる女子達がわざと持っていったんじゃ……と言いそうになったけどきっと本人も分かってる。
橋本さんがなんでいじめられるようになったのかは知らないけど理由は多分〝大人しいから゛とか〝いじめやすいから゛とかそんな単純な事。
いじめのターゲットなんてコロコロ変わるし、みんな自分じゃなきゃ関係ないって思ってる。私もそれは否定できない。
「……傘貸そうか?」
今だって誰もいないから話しかけてるけどみんなが居たら知らん顔してしまったと思う。
「でもそれじゃ紺野さんが…」
「うーん。まぁ走って帰れない距離でもないし?
それか教室に置きっぱなしにしてる傘使っちゃえば?どうせ誰のか分からないんだし」
きっとそれも盗んだやつっぽいけど身元不明のビニール傘なんてどこの教室にもある。
「……だけど勝手に使ったら困る人がいるかもしれないし職員室に行って聞いてみようかな…」
勝手に持っていかれたのにまだ人の事気にするんだ。優しい人なんだなって思うけどその優しさで損をする事もあるよ。
職員室で傘はあるか聞く前にいじめの事を言った方がいいと思うけど、そんな事余計なお世話だ。
「そうだね。折り畳み傘とか2本持ってる先生いそうだしあるといいね」
そういえば私ものんびりしてる場合じゃなかった。
机には入ってなかったしやっぱりスマホは保健室か。保健室の先生帰るの早いし鍵閉められてないといいけど。
「紺野さん、ありがとう」
何故か教室を出る寸前で橋本さんにお礼を言われた。
橋本さんっていい人そうだけどいじめから助けてあげる力は私にはない。