翼をなくした天使達




「ねぇ、美保。もし私がこの世界の人じゃないって言ったらどうする?」

本当は誰にも言わないつもりだった。

この世界が泡のように消滅してしまうのは悲しいから、だったらさっきの仮説みたいに私が消えた後、またもうひとりの私が戻ってきて普通に生活してればいいなって思った。

だけど誰かには本当の事を知っていて欲しい。

「私ね、こことすごく似ている場所に居たの。
そこで生まれてそこで育って。だけどここと違う事は冷たい人がたくさんいるって事」

人に関心がなくて、自分だけが大切で、
私の周りにはそんな人しか居なかった。


「私その世界でいじめられてたの」

布団から起き上がって美保の顔を見た。


「美保。美保もいじめらてた。信じられないだろうけどそこにはここと同じ人がいて私の都合のいいように変わってて。だから私が知ってる美保は全然違う人なんだ」

気付くとポロポロと涙が溢れて声が震えていた。

私の地獄の日々は市川さんを庇った日から始まった。

今思うと私にはなんの覚悟もなくて、もしかしたら市川さんに感謝されて、まりえも変わってくれて…なんて本当に正義のヒーロー気取りだったのかもしれない。

だから感謝どころか手のひらを返してまりえ側についた市川さんの事も許せなかった。

もしあの時、庇う事で自分がいじめられるかもしれないけど、それでもいいって覚悟があったなら、

地獄の日々を乗り越えられたんじゃないかって思う。


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