翼をなくした天使達
屋上を吹き抜ける風には雨の匂いが混ざっていて、スーっとそれは私の体に入っていく。
「ねぇ、蒼井」
「あ?」
この場所に立ったらふっと思い出した事がある。
「前に蒼井がここから飛び降りようとした時あったじゃん。あの時逆光の中に蒼井じゃない別の人がいたんだ」
確かあれは体育の授業中。
屋上に立つ蒼井の姿を見付けて慌てて走ってきた時の事。頭のオカシイ事ばかり言う蒼井の事を少しだけ信じてみようと思った時、私は一筋の涙を流した。
「……別の人?」
「うん。今思うとあれは私だった」
私もあんな風に手すりを越えてあの場所に立って、これで苦しい毎日を終わりにできるって思ってた。
だけどきっと誰かが止めてくれるのを待ってたんだ。
本当に死にたかったわけじゃない。なにか少しでも心の支えになるようなものがあったら私は生きれたと思う。
最後の記憶は足を踏み出したあの瞬間で終わってる。だからどんな顔をしてどんな気持ちで地上までの数秒を落ちたのか分からないけど、
もし、蒼井が私を助けようと一緒に落ちて手を伸ばしてる瞬間が見えたなら…………
きっと涙を流して手を掴んでたんじゃないかって今さらそんな事を思うよ。
「ずっと言えてなかったけど私を助けようとしてくれて本当にありがとう」
私、自分の事何もかも駄目だって思ってた。
価値もないし必要とされてないし、周りよりもずっと自分で自分の事をそう思ってた。
でも全然駄目なんかじゃなかったね。
私に足りなかったのは少しの勇気だけ。