翼をなくした天使達



なんなの、もう。

そんな顔しなくてもいいじゃん。

私だって分かってるよ。でもその一歩が出ない。
心では分かっているのに弱さが邪魔をする。

「………蒼井、怖いよ私」

「ダメだ。戻れ」

「…嫌だ。一緒に」

「お前は1人で飛び降りた。だから1人で行け」

雨の匂い。なま暖かい風。

あの日と同じだ。自分の心と同じようによどんでいて丁度いいと思ったあの時。

躊躇なく踏み出したはずの右足が震える。


「……無理……」

怖さは落ちる事だけじゃない。

この世界で私は変わって自分を好きになれて、
やりたかった事、したかった事をやり遂げる事ができた。

家族も学校も友達も、私の居場所はちゃんとあるって実感できる。でも現実世界は違う。叶えたいと願ったのは確かにここじゃないけど………

私は向こうでやって行けるの?

また辛くなって苦しくなって同じ事を繰り返すだけじゃないの?

すると、ドタドタっ!!と階段を駆け上がってくる音がして、蒼井は鍵をかけようとしたけど壊れていたらしくドアを体で押さえた。


「紺野!そこにいるんだろう?早くドアを開けなさい!」

ドンドンドンッ!と濱田先生がドアを叩く。来たのは先生ひとりじゃなくて学年主任や保健室の先生。そして騒ぎを聞きつけた生徒達。

向こう側でドアを開けようと押してるけど、蒼井が必死でそれを制止していた。


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