翼をなくした天使達



「……あ、あ……」

どうしよう。声にならない。

ただずっと涙だけは溢れて止まらない。


「ほ、本当に蒼井?」

まだ信じられなくてそう聞くと蒼井はいつものように私の頬をつねった。

「ほら本物だろ」

「……っ……!」


私はその瞬間、蒼井に抱きついた。ただただ嬉しくて嬉しくて。蒼井は少し痩せてしまったけどその大きな手で私を強く抱きしめ返してくれた。

「俺になにか言う事は?」

耳元で蒼井が問う。私は蒼井の肩に顔を埋めながらヒクヒクと答えた。

「ありがとう」

「あとは?」

「ごめん」

「あとは?」

「生きてて良かった」

「うん」

「私もう負けないから」

「うん」

「…………会いたかった」

「俺も」


あの世界の出来事は現実の時間ではたった5日間のこと。

もし誰かに話したらオカシイ奴だって笑われて終わってしまうだろう。

でも私達はあの世界で自分自身と向き合って、
大切な事に気付いて、そして手に入れた。

だからきっとこの先どんなに辛い事があっても私は同じ過ちは繰り返さないと誓える。

「おかえり、蒼井」

「おう」

また同じ世界で生きられる事が奇跡だ。


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