翼をなくした天使達
だけどそれだけで終わるはずがなく、加藤君の顔はみるみる変わっていく。
「は?つーかなんでオレがフラれたみたいになってんの?もーやめやめ!はいはい。みんな出てきて~」
加藤君が手を2回叩くと隠れていた野次馬達がぞろぞろと出てきた。それは沙織を筆頭にいつも騒いでる数十人の男女。
「ってかなにマジで返事とかしちゃってんの?キモッ」
よほどプライドを傷つけられたのか加藤君の文句は止まらない。それに続くように周りも橋本さんを野次り始めた。
「なんで断ってんの?お前みたいな身分が秀を振るとか何様だよ?」
「モテる女気取り?誰もお前に本気で告ったりしねーから!」
ワッと湧く笑い声。
その顔が私には悪魔に見えた。
「ってかさー。せっかくイエスに賭けたのに負けたんですけど?」
沙織はジリジリと橋本さんに近付いていく。
後退りする橋本さんに逃げ場はない。
「ねぇ、なんとか言えば?」
沙織はグッとその制服の襟を掴む。怯えた目でいくら橋本さんが見ても周りはやっぱりニヤニヤするだけ。
集団がいじめという一つの所に執着するとそれはもはや人ではなく人の形をした兵器だ。
「ってか損した奴らの金全部払えよ?オレはフラれて傷ついたから慰謝料ももらわなきゃ」
「本当だよね~。つーか秀に謝れよ?」
賭け事のゲームに利用された上に理不尽な要求。
橋本さんは涙を堪えて沙織を見た。
「は?なにその目」
睨んでいるわけじゃないけど濁りがない真っ直ぐな目。
橋本さんはひとりで戦ってる。
いじめられ続けても毎日学校に来て背筋を伸ばして授業を受けている。
なんて強い人なんだろう………
「こっち見てんじゃねーよブス!!」
沙織はそう言って思いきり橋本さんを突き飛ばした。