翼をなくした天使達


恐る恐る手を伸ばしてカーテンの隙間から確かめると、そこに居たのは何故かびしょ濡れの生徒がひとり。

雨……?と思って外を見たけど、太陽がさんさんとしていて雨雲ひとつない。

「つーか隠れなくて良くね?パンツ見えそーなんだけど。お前の」

「ちょ、うるさい。静かにして」

パンツとかどうでもいい。ってかあれって……
橋本さん?

橋本さんは保健室のタオルを2、3枚借りて髪の毛や制服をゴシゴシ拭いていた。

そういえば橋本さん……さっきのビデオの授業の時いなかった。サボるタイプじゃないしたまに遅れてくる時はだいたい沙織絡み。

沙織達も確か遅れてきたよね?もしかしてびしょ濡れの原因って……

グスンと鼻をすする音がする。保健室は静かだから余計にそれが聞こえてきてしまう。

「また助けてあげれば?正義の味方なんだろ?」

蒼井が嫌味ったらしく言う。

「……」

ここで声をかけてもまた中途半端になる。

沙織に強く言うことは出来ないしみんなの前で庇うこともできないし、手を引いて逃げ道を作る事もできない。

そうだよ。中途半端は逆に傷付けるだけ。

「……っ……」

声を殺して泣く声は耳を塞ぎたくなった。

苦しい、辛い、助けてってそう聞こえる。

暫くすると橋本さんはブレザーだけを脱いだ。
Yシャツとスカートはまだ濡れていたけど着替えがないのかそのまま保健室を出ていってしまった。

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