翼をなくした天使達

「お前まだなんにも思い出さねーの？」

荒っぽい口調。その目はギロリの私を睨む。

水しぶきが飛ぶ車道のガードレール。ザザザーと砂嵐のように降る雨の音がうるさい。

まだ思い出さない？なんの事？

状況が分からなすぎて耳鳴りがしてるような気がする。いや気のせいじゃない。

頭から水を被ったみたいに上から下までビショビショで中の下着にまで浸透してきた。このままじゃ本当に風邪ひく。

「ちょっと言ってる意味が分からないんですけど」

「は？意味がわかんねーのはこっちだから」

不審者疑惑は消えてないけど何やらこの人は私に怒ってるみたい。なんなのもう。ってか誰なの？

「私あなたの事知らないし人違いじゃないですか。ってか学校に遅刻するんで失礼します」

これ以上巻き込まれたくないし多分同級生っぽいけど怖いから敬語で。私は素早く傘を拾って逃げるように早歩きをした。

ずっと背中を見られてる気がするけどこんな公共の場で刺されたりはしないだろうしとにかく離れたい。


「紺野あかり。いい加減気付けよグズが」

しっかりと届いてしまったその声。

私の名前知られてるし……ってかグズってなに？
なんでワケわかんない人にそんな事言われなきゃいけないの？

やばい。怒りたいけどとにかく関わりたくないし聞こえなかったフリをしよう。