翼をなくした天使達
気が付くと私は家を飛び出していた。
部屋着のまま、無我夢中で、ただただ走り続けた。
足を止めたのは小さな公園。ここの滑り台が好きで小さい頃はよく遊びに来ていた。だけどその記憶も偽物かもしれない。
ううん、きっと思い出す嫌な事が本当の記憶で私の頭の中にある幸せだった出来事は全て作り物。
料理が好きで掃除好きのお母さん。
心配症で家族を優先するお父さん。
喧嘩なんてした事がない。いつも見てるこっちが恥ずかしくなるほど仲良しで私の大好きな二人の笑顔。
あれもこれも全部ウソ。
本当は家事の嫌いなお母さんに代わって私がいつもしてた。ご飯はコンビニかカップラーメン。
学校に行く前は焼いていない食パンを食べて「いってきます」と誰もいないのに言う。
家族なのに家族じゃなくて、
学校で何があったとか何をしてるとか一切関心がなくて、いつもいつも声を殺して泣いていた。
「……っ……」
どうしよう、苦しい。
今のお母さんとお父さんも私が作り出したものだったなんて……。それに忘れていたのに当時の感情が戻ってきて涙が止まらない。
どうしよう、どうすればいいの?
美保には言えない。家にも帰れない。
私は震える手でスマホを取り出して何故か蒼井に電話をしていた。誰でもいい。誰かの声を聞かないと不安に押し潰される。
繋がった電話は無言だった。
「……っ、助けて、私……」と声を出したところでプツンと電話が切れる。切ったのは私でも蒼井でもない。
電池切れのスマホ。その画面は私の心みたいに真っ黒だった。