翼をなくした天使達
「お前が天国?逃げ癖のついてる奴がそんなとこ行けるわけねーだろ」
蒼井がベンチから腰を上げてこっちに歩いてきた。
蒼井の言葉にムッとするのはいつもの事だけど今のはちょっと許せない。
「逃げ癖とか蒼井が私の何を知ってんの?普通に天国行けたらいいなって言っただけじゃん。なんでそんな嫌味な事しか言えないわけ?」
そうだねって言ってくれればそれでいいじゃん。
私だって本気で言ってるわけじゃないのに煽られると余計な感情が出てきてしまう。
「元はといえば蒼井のせいじゃん」
「は?」
「私は家の事とか思い出したくなかった。それなのに早く思い出せってそっちの都合押し付けてさ。忘れていれば笑って過ごせたのにもう無理じゃん」
現実の事を忘れたんじゃなくて、それすらも私が望んだ事だったとしたら?
忘れたんじゃなくて忘れたかったんじゃないの?
「私の事なにも知らないくせになんなの、
もう…………」
揺れていたブランコはいつの間にか止まっていた。
するとギシッとまた鎖の音がして見上げると蒼井が私を見下ろしていた。
「知らねーよ。お前の事なんて」
外灯に群がる虫達がバチバチと音を立てている。
掴まれてる鎖が全然動かなくて蒼井が目の前にいるから立つ事もできない。
「自分でワケわかってねーのに俺に電話して助けてとか言って挙げ句の果てには当たり散らしやがって。少しは落ち着け。馬鹿」
「……」
落ち着いたら受け入れなきゃいけない。
現実の事も今の事も、そして後々知るであろうこの世界の意味も。
「お前が苦しくてどうしようもねーっていうんなら相談くらい乗ってやる。どうせ暇だしな」
コツンと飛んできた痛くないデコピン。
どうしてこんな時に優しくするかな。せっかく止まっていた涙がまた溢れそうだ。
「さっきわざと私を怒らせるような事言ったでしょ」
そうすれば怒りに任せて言えない言葉が出てくるから。
「さぁ?」
「……」
蒼井も嘘つきだ。
でもたまに優しい嘘をつくんだって少しだけ蒼井を知れた気がする。