翼をなくした天使達




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


蒼井はその後「寝る」と言ってどこかへ行ってしまった。昼休みはあと10分残っているけど教室には行きたくない。

私は時間潰しに裏庭をウロウロしていると誰かが花壇の前で座り込んでいた。


「橋本さん?」

名前を呼んだ後でハッとした。もう声かけなくていいと本人にも言われたのに。目が合って数秒、
最初にニコリとしたのは橋本さんの方だった。

また沙織達に何かされたんじゃないかと思ったけど、どうやら違うみたい。

橋本さんの足元には如雨露(じょうろ)とシャベル。手のひらには小さな種のようなものが見えた。

「……それ花の種?」

橋本さんに同情してるから声をかけたのではない。ただ単に何をしてるか気になっただけ。

「うん。ここの花壇ずっと荒れ放題で。やっと草が取り終わったから花でも植えようかなって」

「橋本さん園芸部だっけ?」

「ううん。これは私が勝手にやってるだけ」

そういえば正門前や中庭の花壇は人目につくからいつも綺麗な花が咲いてるけど、裏庭の手入れを誰かがしてる所を見た事がない。

古い焼却炉があるから年に一度の大掃除の時にゴミを捨てに通るくらい。

「ここに花壇なんてあったんだ」

雑草に覆われてるから気付かなかった。とゆーか先生達でさえ知らない人いそう。


< 83 / 196 >

この作品をシェア

pagetop