翼をなくした天使達
「橋本さん、ごめんね」
私はそう言いながら隣に座った。橋本さんは意味が分からずキョトンとしてる。
無意味に近くの雑草を抜いてみたりして、その言葉の続きを言った。
「いじめの事、先生に言ったの私なの」
ただでさえ沙織は加減が分からなくなってるのに、私がした事によってもっと橋本さんの立場を悪くしてしまったかもしれない。
見てみないフリが出来なかったのは可哀想だからじゃない。
私は頭のどこかで橋本さんの姿と自分を重ねてた。
みんなに笑われて傷つけられて私はその気持ちに覚えがある。
「紺野さん私ね、この前先生に相談しなくても平気なんて言ったけど本当は言う勇気がなかっただけなの」
橋本さんは小さな種をひとつひとつ柔らかくした土へと埋めていく。
「だからもし紺野さんが私の為を想ってしてくれたなら嬉しいよ。ありがとう」
ここはリアルじゃないと分かっているけど浮き沈みする心は本物で、それに振り回されてると言ったら蒼井はまた馬鹿だと私を笑うだろう。
「それ、なんの種?」
橋本さんが植えている場所を指差した。
「デイジーって花の種」
「デイジー?」
「白くて可愛い花。毎日水をあげていつか花が咲いたら何か変わってるかなって」
平気なわけがない。毎日あの地獄のような教室に行って嫌な事をされたり言われたり。きっと逃げ出したくなった時もあったはず。
「デイジーの花言葉は希望なんだ」
…………希望。
小さな花に託すにはあまりに大きな願いだけど、
なにかにすがらないと立ち上がれない時もある。