オール ゼロ
「あなたー、優夜ー。ご飯にしましょう」
畑仕事をしていた僕と父のもとに癒されるような声で昼のご飯を知らせる母がやってきた。
昼食はサンドイッチ、口の中に広がるパンの食感がたまらない。
「ん?なんだあれ?」
父親の視線の先、山の頂上あたりから動く変なもの…いや、こちらに向かってくる大勢の人達がいた。それは手前の山だけではなく、後ろの山からも左右の山も同じ光景が見えた。僕達はあっという間に多くの人達に囲まれた。全員同じ格好の黒い服を来ていたのでなにかの組織で間違いない。
「国からの殺害許可が降りた、母親のお前はこの場で殺す!」
1人の男がでてきてそう言った。禍々しい殺意が込められた「殺す」は僕達が家に隠れる程に危険を発信していた。無意味とわかっていて父親はドアに鍵をかける。
「優夜、お前にこれを渡す」
鍵をかけた父親は家の大黒柱の隠し扉を開け、中から刀をだして俺に投げ渡した。
「死ぬなよ」
親父のその言葉はとても重かった。
「私からはこれね」
母親から、いつも首にかけていた十字架の首飾りをもらった。
「生きて!」
母親の涙と鼻水でボロボロになった顔をみて、僕も泣いてしまった。
バン!と勢いよく扉が壊され、中に人が入ってくる。父親が入ってきた男達に立ち向かう。かなわないとわかっていて立ち向かう親父の背中はいつもより大きかった。
ボコッ!
鈍い音が聞こえ、父親が倒れる。
男が銃を構える。もちろん狙いは親父の頭だ、赤外線の赤い点が親父の頭の上にでている。
ダァーン!!
うるさい1発の銃声が辺りに響いた。親父の頭には穴が開いて中から赤い血が噴水のように飛びでていた。
「優夜、よく聞いて。あなたは私が合図したらすぐに逃げなさい」
母親が聞こえるか聞こえないかぐらいの声で話してきた。
俺はただ頷くしかなかった。母親の手が俺の頭に乗った。すると、なぜか体が消えた。正確には透明になったというところだ、いわゆる透明人間。
「今よ!!!後ろの壁に走って!!」
母親からの合図、考える暇はない。
男達が銃を撃ってくる、けど当たらない。壁にぶつかる勢いで走った、なぜか壁をすり抜ける。家を囲んでいた男達も気づいてない。僕はそのまま森の中へと逃げ去った。
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