映画みたいな恋をして

柔らかく輝く朝日を背に、実に幸せそうな顔でベッドで朝食を頬張る吾郎。
至福を絵に書いたような顔とでも言おうか。あまりに緩み切っている顔は
ジェームスボンドとは大違い、と思ったことは胸に留めて吾郎には言わないでおくことにした。


「まーなー コーヒーおかわり~」
「・・・ジェームズボンドはお代わりしてなかったけど?」
「別の映画ではきっとしてたで?早う早う」
「・・・はいはい」
 

先週末の失態はどうやら挽回できたようで、今週のお休みは予定通りもらえることになった吾郎は
昨夜、私の部屋に泊まりに来た。そして今朝は・・・
先週の約束どおり『何でも言う事をきいてあげて』いるのである。
ジェームズボンドと同じ朝食。ま、このくらいならいいでしょ。許容範囲。たいした事じゃない。


見つめる私の視線に気づいた吾郎が
「大丈夫。こぼしてないからな~」と微笑んで小さく右手を振った。
それがたまらなく可愛らしくて、愛しくて、私は吾郎に小さくキスを投げた。
すると、さっきまで振られていた吾郎の右手が
まるで私の投げたキスが目に見えているかのように
くっ と 掌で掴むと自分の唇にあてて、また微笑んだ。


そんな仕草にもその微笑にも愛しさがこみ上げて胸が一杯になった。
あふれ出しそうなその思いを、芳ばしいを香りを放っているマグカップの中の熱い液体と一緒に飲み込めば
それは身体の隅々にまで熱く沁みわたっていく。吾郎への思いで爪の先まで熱く満たされるようだった。


目を閉じてその『熱』に心地よく浸っていたら
突然背中から抱きしめられて驚いて、思わず「ひゃっ」と変な声が出てしまった。
振り返るとすっかり朝食を平らげてキッチンへとトレイを運んだ吾郎の満足げな顔があった。


「もぅ!びっくりした!」
「真奈、隙だらけ」
「当たり前でしょう?自分の部屋なんだから」
「めっちゃ可愛い。食べちゃいたい」
「・・・もぅ またそんな事言って。代わりにコレでも飲んでなさい!」



吾郎のお腹めがけてマグカップを突き出すと
微笑んだまま私の手からカップを取り上げ一口啜った。



「うわ、ミルク多すぎ。甘くないコーヒー牛乳みたいや」



苦く笑った吾郎が 「口直し」 と私にキスをした。
そのキスは口直しのハズなのにカフェオレよりもコーヒー牛乳よりもずっとずっと濃くて甘くて・・・
一度味わったら止める事ができない麻薬のように私を捉えて放さない。



「ん。じゃ次」
「え?」
「先週のつづき」
「・・・本気?」
「もちろん。なんでも言う事きいてくれるんやろう?」



吾郎はにっこり笑って私の耳元に「ちゃんとボンドガールになりきってや」と囁いた。
やれやれ。こうなったら仕方ない。やるっきゃないでしょ。有言実行。女に二言は無いのだ。
一度大きく深呼吸してから気合を入れた。



ねえ、吾郎?私を侮らないほうがいいわよ。
ここからは貴方のお望み通り、ハリウッドの女優もボンドガールも凌ぐほどに誘惑してあげる。



覚悟してよね。吾郎。



end
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